特別養護老人ホーム しおかぜ荘
主任介護員 髙橋 雅幸
しおかぜ荘の紹介
『私たちは、地域の福祉事業の主たる担い手として、利用者の尊厳を守り、万全な福祉サービスを提供するとともに健全経営に努めます。』(社会福祉法人柏崎刈羽福祉事業協会)という法人理念のもと、多様な福祉サービスを総合的に提供しています。また、利用者の尊厳を保持しつつ、自立した生活を営むことができるよう支援することを目的として、社会福祉事業を行っています。
しおかぜ荘は、平成12年1月に開所しました。日本海を目前に、キス釣りやジョギング、そして夏には柏崎最大のイベント「ぎおん柏崎祭り」の大花火大会を観て楽しんでいます。
私たちはそのような環境の中、「ひとり一人を大切にし、その人らしい暮らしを支える」を目標に、利用者の皆様が、利用して良かったと思えるような施設を目指しています。
しおかぜギャラリー
毎年10月に芸術の秋を楽しんでいただくことを目的に開催しています。
しおかぜ荘に入所されている利用者の方々が制作してくださった作品やデイサービスセンターの利用者の方々の作品、近隣町内にお住いの方々の作品、絵手紙の会の皆さんの作品、保育園、幼稚園の児童が描いてくれた絵など、絵画、写真、編み物、さまざまなジャンルの作品をお預かりし、展示させていただいています。10日間ほど、一般の方々にも開放して、作品を楽しんでいただけるイベントです。
しおかぜ荘に入所されている方が若いころ制作した作品を展示させていただくことで、その方の趣味や特技、これまでの生活が見えてくることもありました。
居酒屋しおかぜ
会議室を居酒屋風にセッティングして『居酒屋しおかぜ』を定期的に開催しています。職員は小道具を持ち寄り、割烹着や酒屋の前掛けをつけるなど雰囲気作りに精を出します。
利用者、職員の間に普段と違った空気感が漂い、会話を通じて利用者の数々の引き出しが開けられていく瞬間が垣間見られます。そのお話や表情を拝見し、私たちは『なるほど、これが本当の〇〇さんの姿なんだ』と気づかされます。行事には不思議な力があり、ひと行事を終えるごとに企画してよかったと、利用者の表情を思い浮かべながら感じます。それをヒントに生活の中でできること、利用者のいきいきとした表情を少しでも多く引き出せるよう工夫すること、それこそが介護のやりがいであり、介護員冥利に尽きるものと考えます。
事例検討報告会
毎年、各部署で年度初めに1年間の目標やテーマを決め、年度末に事例検討報告会を行っています。今年度の事例報告会で報告された事例をご紹介します。
誤嚥性肺炎での入院、嚥下機能低下、高齢を理由に食事が普通食からミキサー食に変更になった男性利用者の事例です。
T様 95歳男性 要介護3
話好きで淋しがり屋、人と常に関わりたいと思う反面、自分からコミュニケーションをとることが苦手で、誰とも関わらないことで自暴自棄となり、「死にたい」との訴えが多くなりました。
退院後、普通食のご飯からミキサー食に変更となったことを機にT様の不満が日々募り、食事を楽しむことがなくなりました。また、あらゆる場面で今まで以上に活力の低下が見られるようになりました。
多職種で検討を重ねた結果、息子さんから「長くない人生好きな物を食べさせてあげたい」という言葉をいただき、それが後押しとなり、主食をご飯に変更しました。久しぶりに主食がご飯になった朝食時、T様はガッツポーズをして喜ばれていました。
食べ始める際には、「お久しぶりです」「ご無沙汰してます」とご飯に話しかけておられました。
満面の笑みで幸せそうにご飯をかみしめてゆっくり味わって食べている姿を見た時に、T様の生きていく上での喜びを初めて知ることができたように思います。
終末期の対応
しおかぜ荘では、利用者の健康状態が著しく変化された場合、最期まで尊厳を保ちつつ穏やかな日々を送られるよう支援させていただいています。
看取り対応となった利用者の方には、看取り期のケアプランに沿った対応を実施しています。看取りになったからといって、基本的な対応を大きく変えることはありません。不安を抱えた心境に寄り添い、苦痛緩和への対応を行っています。
利用者を看取るご家族は、その時々でさまざまな不安、葛藤、悩みを抱きながら看取り期を過ごされます。私たちは、ご家族がどのような苦悩を抱え、看取り期を過ごされているかを理解し、少しでも不安なく過ごしていただけるように支援させていただいています。
看取りには、まったく同じ看取り方はありません。正解があるわけでもありません。
しおかぜ荘では、看取り対応実施後、ご家族、職員に対して、それぞれアンケートを行っています。ご家族には、ご意向に沿う内容であったかどうかなどのご意見を伺い、職員には実施した内容で良かったこと、心残りなこと、悩んだこと、そして、お亡くなりになった利用者の方に対しての「最期のメッセージ」を書いてもらっています。
アンケートの回答からご家族の心境や、対応した職員の不安や悩みを共有することを大切にしています。
生活ケア会議
生活ケア会議の目的は「利用者の生活の質の向上」にあります。「こうした方がもっと気持ちよく生活できるのではないか、笑顔が増えるのではないか」という出発点から、そのためには何をするべきかを毎月検討しています。
たとえば、食事です。ただ単に食べるのではなく、前述したT様のように「おいしく食べられているか、楽しんで食べてもらえているか」を基本に、必要な支援や環境づくりを検討しています。
利用者の口の開きはどうか、足底が床についているか、食欲が進まないような薬が服用されていないか等々、さまざまな要素を多職種で話し合って、その人らしい生活ができるよう検討を重ねて実践するための会議です。その際、最も気をつけていることは、「自分たち職員」目線になっていないかということです。水は低きに流れやすいものです。利用者の方に落ち着かない行動が見られれば、私たちは安易に薬に頼ってしまいがちです。
しかし、そうではなくて、しっかりと原因を突き止めることが専門職には欠かせません。この反省に立ち、「今行っている介護のもう一歩先」を見据えて、これからも利用者の「生活の質」を高めていきたいと考えています。
柏崎にお越しの際は、ぜひ、しおかぜ荘にお寄りください。玄関を入ると、コロナウイルスに打ち勝つための超巨大「魔除けゴジラ」がお待ちしております。ご利益があるともっぱらの噂です。
月間「ゆたかなくらし」(2021.6月号)の21.老福連のページに掲載されました。